『動物からの倫理学入門』

動物からの倫理学入門
 現代英米系の倫理学の入門書だそう。現代の、あるいは過去の倫理学のマップがどのようになっているかは僕の知るところではありませんが、倫理学の全体で見ても大半のトピックは出てるんじゃないか、と思うほど内容は豊か。僕が無防備だったとはいえ、言語哲学がらみの話も出てくるのには参った。
 倫理学がどういうものか?というのは、ちょっと考えただけだとピンと来ないと思うんですが、一言でまとめると(ほんとは僕みたいのが一言でまとめようとしちゃダメなんですが)、われわれが「道徳的」と直観していることを、なるべく完全に理論的に体系化する(説明する)、といった感じになると思う。
 で、 300 頁あまりかけてこの題に対するさまざまな提案が紹介されるんだけども、どれも完全にはうまくいかない。特に、動物と人間を区別することのむずかしさ、なんていう話題は、個人的にも「マズイなー」と思わされた。たとえば、雑な要約になりますが、動物にはわれわれのような知的能力がないから道徳を適用しない、と言うと、赤ん坊とか知的障害者はどうなるの、という話になる。逆に、赤ん坊などに配慮しようとすれば、動物にも権利を認めることになる。また進化論から考えれば、人間とサル、ひいてはあらゆる動物は連続していることになる。これは倫理的に一貫した態度をとることのむずかしさでもある。上のような例をまともに実践すれば、動物と一緒に赤ん坊や知的障害者も切り捨てるか、そうでなければ動物に人間と同等の扱いを認めることになる。そしてそれらの間をとる立場を考えるのはむずかしい。
 ちとヘヴィーだったので細かくは見ていきませんでしたが、それでも倫理学がどういう分野なのか、ということに対するイメージや、より詳しく学んでいくための見通しは得られた。ヘヴィーになるの覚悟で内容をたくさん盛った成果だと思います。よい入門書。